もう何年も前。ドキュメンタリーを番組作る仕事をしている男性が、自身のガン闘病記録を番組にした。そのとき彼は音楽がつけないようにと制作側に強く希望したんだ。

2年前の憲法集会で、歌のステージを担当していたうじきつよしさんが素晴らしいステージの後にこう言った。「音楽はとても素晴らしいものです。でも時に人の心を扇動してしまう。そこは注意していなければいけない。だから僕の今日の音楽も信じる必要は全くないんです。」

さつき開設10周年記念の時、相談室にスクリーンが貼られて私たちは一本のVTRを見た。司会者がハンカチを用意してくださいと言った時私は嫌な予感がした。10年の日常が映されたスクリーンには、利用者さん達と職員が楽しそうに笑う姿があった。それはどれも本当のことだったと思う。でも日常よりはるかに大げさなその音楽は、あまりにも行き過ぎていたと私は思う。既にこの時、最初に描いたドキュメンタリー番組を見ていたので、私はこのVTRに対し完全にしらけきっていた。作成した人に悪意はないと思う。みんな演出を考える。持っていきたい方向がある。成功させたいと思う。評価されたいと思うし。音楽がすごい力を持っているから、うじきさんの言うように、音楽は音楽、メッセージはメッセージ、映像は映像と切り離しておける冷静さを、いざと言うときには呼び起こせるといいなと思う。